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上演時間: 100分
原作DATA:アンティゴネ
公式ページ:ギリシャ国立劇場、日本文化財団
原作:ソポクレス
現代語訳:ニコス・パナヨトープロス
演出:ニケティ・コンドゥーリ
舞台美術・衣裳:ヨルゴス・パッツァス
音楽/演奏:タキス・ファラジス(perc・弦楽器・イディ オフォーン)
振付:ヴァッソ・バルブーシ
演奏:
アレコス・クリスティディス(perc・イディオフォーン)
ディモス・ツィガコス(perc・イディオフォーン)
| アンティゴネ(オイディプス王の娘) | リディア・コニオルドゥ |
| イスメネ(アンティゴネの妹) | マリア・カツィアダキ |
| クレオン(テーバイの王) | ソフォクリス・ペッパス |
| ハイモン(アンティゴネの婚約者) | ニコス・アルヴァニティス |
| エウリディケ(クレオンの妃) | ミランダ・ザフィロプールー |
| テイレシアス(預言者) | コズマス・フォンドゥーキス |
| その他 | コスタス・トリアンダフィロープロス/テミストクリス・パヌー/トドロス・カツァファドス/アリストテリス・アポキティス/他 |
今回は回数を稼げた(全部で3回観ました)のと、かなり近くで見られたということもあって、舞台の様子をちょっと細かく書いてみました。ついでに感想などもまじえておきます。ご覧になった方にはまた思い出せるように、ご覧になれなかった方には雰囲気が伝わるように…。
■舞台装置
平台がしつらえられて、奥が高く手前が低い、やや傾斜した正方形に近い舞台。奥には白い布が5本、天井から床まで縦に張られている。後方にはホリゾントもないので、幕の間から舞台裏が覗けて見えてしまっている感じ。登場人物のほとんどはここから出入りします。
長めの蛍光灯が数本、平台から生えているというか刺さっているというか(後で聞いた話では、"槍" を表しているらしい)。舞台ハナにも数本の蛍光灯が並べられており、さらに天井からも風鈴のように下がっている。
舞台上にはスチールとアクリルでできた椅子が多数(コロスほか登場人物たちが座ったり投げたりする)、ところどころに積まれた砂と、乱雑に置かれた武具(古代風の甲冑や円形の盾、剣、現代風の軍靴)。下手、布(コート?)の下には死体(役)、芝居の導入部で運び去られる。上手、砂で固定して逆さに置かれた円形の盾の中には水溜り。
■衣裳
コロスとクレオンはグレーまたは黒で統一。近くで見ることができたので細かく書くと、コロスは白の襟付きシャツにグレーのセーター、スラックス。濃グレーの薄手ロングコートに、ロングマフラー(タオル地みたいな材質)を結ばずに掛けている。クレオンは黒シャツ、黒ロングコート。襟の折り返しは白黒のストライプでちょっとおしゃれ。これを脱ぎ捨てると裂けた左袖が現われるわけですね。
アンティゴネとイスメネはシンプルな白のワンピース。この上に、アンティゴネはカーキ色のコート、イスメネはアイボリーのジャケット。アンティゴネの靴は黒い編み上げブーツですが、イスメネは白のパンプスで太めのヒール。イスメネは頑丈そうな方だったので、ちょっと女らしさを出してたのかな?
見張り、現代の野戦軍の兵士風。太ったガタイが呑気そうなキャラクターでいい。ジャケットを脱いで手に持ち、Tシャツ姿で登場。水筒もぶら下げてます。
ハイモン、全身白で統一。ただしシャツは着てなくて、上半身は素肌に直(じか)白コート。黒いベルト。白のマフラーというか、ロングスカーフというか、をコロスと同様に掛けています。
テイレシアス。特製のスチール車椅子に乗って登場。カーキ色の毛布にくるまって、案内の子供大人に押されてやってきます。背もたれは、立ったときにちょうど良くなるよう丈の高いつくりになってます。激昂すると、毛布をはねのけ背もたれにつかまって立ち上がる。長髪に、顔と上半身は白塗り。下半身は、言いたくはないが、言わねばなるまい。あれはどう見ても「ステテコ」ですー。
エウリディケ、グレーのサテン地のダブルスーツに黒のシースルーのショール。髪はターバン風に布を巻いてまとめています。
使者1はTシャツ姿、使者2は黒いシャツにマント(それぞれ、コロスから抜けてコートを脱いで登場したものと思われます)。
■照明
とても効果的に使われていたと思います。コロスたち入場のときの薄暗く青い光(夜明け前)、パロドス(入場歌)の夜明けの光など。舞台奥の白幕が照らされて人物が登場するシーンは、どの箇所もとても美しいです。特にハイモンが白い衣装で舞台上に浮かび上がったのを最初に見たときは思わず息を呑みました。若さや潔癖さ、黒い衣裳のクレオンとの対比、花婿としての初々しさが感じられました(でもよく見るとちょっとお腹が出ていたのでがっかりした)。また、クレオンに横っ面張られたときの表情が大げさで◎でした。
そういえばクレオンに反対する者、注意を促しに来る者の衣裳は白で統一されていました。アンティゴネ、イスメネ、ハイモン、テイレシアスがそうです。気のせいかもしれませんが。衣裳担当のパッツァスは「永遠と一日」でも過去(夏)の人物と現在(冬)の人物の衣裳は白と黒(灰色)で分けて、鮮やかな印象を残していました。
■音楽
「古代の音階」が使用されているとは聞いていましたが、実際に演奏されていたものを聴いてみると現代音楽風でホッとしました(実際、本物の舞台で Paniagua みたいな古代音楽をやられたら眠くて大変です。それはそれで嫌いではないですが)。カッコ良かったです。聞くところによると、あの楽器はこの舞台のためにわざわざ作ったものもあるとか。ドラム缶を切ったようなもの、「キーッ」という摩擦音を出すような楽器(?)が見えました。
■主演リディア・コニオルドゥ
公演前から注目されていた名女優。ギリシャ国立劇場でも1977年から多くの舞台に出演しています(ギリシャ国立劇場ホームページ参照)。印象的だったシーンを一つだけ書くとすれば、引き立てられて、クレオンに対し「埋葬の論理」を述べたあと、おじ王の台詞を聞きながら、うつむいてつま先で地面の土をもてあそんでいた場面。死を決意して、あれだけ強い調子でクレオンに食ってかかっていながら、子供っぽく頼りなさそうな姿を一瞬だけ見せていたあの仕草は心に残りました。
■クレオン
アンティゴネももちろんですが、この芝居ではクレオンが良いです(コロスの間からすっと前に進み出る初登場シーンはかっこいいぞ)。権力の座に着いたばかりで、自分の地位を確かにするために頑なになる姿と、ハイモンやアンティゴネ姉妹に対するときの、父として、おじとしての態度が見事に演じ分けられていました。微妙な声の調子と台詞回しであれだけ魅力的なクレオンが作れるとは。
■コロス
コロスも良いです。「メデイア」の時のコロスは非常に抽象化されていて、物語の中にほとんど入ってこないという印象がありました。今回はテーバイの長老として俳優とちゃんと対話をするし、5つのスタシモンでは歌って踊ります。今回のコロスは歌いも踊りもしなかった、という意見もあるのですが、私には歌って踊っているように見えました…。確かに台詞にメロディーは乗ってませんでしたけれど、音楽にあわせて"コーラス"で支えていました。エロス賛歌のときのアレは踊りじゃなかったのかなあ。だってプログラムにも"振り付け"って方が載っていますし。
エロス賛歌は、歌も視覚的にも美しくてお気に入りの箇所です。2回目、3回目はこのシーンになるのを楽しみにしていました。舞台中央に集まって、体を揺らしながら謳いあげる様子は正教の祈りを思わせると言ったら考えすぎでしょうか。
コロスはやっぱり歌って踊って、芝居に絡んでくれるのがいいです。
■そのほか、演出など
登場人物たちが客席後方から現れて舞台へ上がっていくという、冒頭のシーンがとても印象的でした。日本の演出家でこれを多用する方がいらっしゃいますが、ギリシャの舞台でもやるんだ!? という意味で(ギリシャの野外公演ではこの演出は無かったそうです)。
はじめ、登場したのはコロスだけかと思いましたが、アンティゴネ、イスメネはじめほとんどの登場人物がここで入場していました(いなかったのは妃のエウリディケ、テイレシアスくらいか)。音楽の切れ目で一瞬静止し、振り向いて客席をじっとみつめる。これが数回繰り返され、観客は一気に劇の世界に引き込まれてゆきます。見事な導入だと思いました。
テイレシアスが車椅子で登場するということは事前に聞いていましたが、実際に見てみるとやはりびっくり。 「アンティゴネ講座」で、「どうしてですか?」という質問をしてみたところ、「障害を持つ人物だということを視覚的に表している」という意味合いがあるそうです。テイレシアスは盲目の預言者なので、前衛的な演出をする舞台では、これが色々な方法で表現されたりするらしいです。また、日本のギリシャ悲劇で車椅子が多用された演出があり、ここからヒントを得たんじゃないか、と、ピンと来る人も多いかもしれません(流行だろうか?)。また、白塗りの姿は日本の舞踏やギリシャの他の演出家を思い起こす人もあるでしょう(流行だろうか?)。
テイレシアスというのは、曰くのある妖しげな預言者です(なにしろクレオンの何代も前の王の時代からずっと預言者しているのです。伝説では一時期女性だったこともあるとか)。そういう不気味さを持ったテイレシアスにはなかなかお目にかかれないのですが、今回は十分それを見せてくれました。
ラストシーンで、クレオンが死んだ息子(ハイモン)に砂をかけるという行為を行うのはコニオルドゥ独自の演出。アンティゴネが、禁じられた埋葬を行って罰を受けたことと対比されていて、とても面白い箇所です。
言葉について : 現代ギリシャ語が全部聞き取れるわけではないので印象だけになりますが、簡潔で詩のようなリズムがある現代語訳。最近見つけた現代語訳のものと比べても、ずいぶん違います。台詞として演じられたときに効果的になるよう、語順なども多少入れ替えてあったのかもしれません。日本公演にあたって、主催者が今回初めて現代ギリシャ語と日本語の対訳台本を発行してくれましたが、これはとてもありがたい試みでした。
この公演は、日本のあとオーストラリアのメルボルン、アデレード、シドニー、ベルギー、ドイツをまわります。
© 2003.03.23 bouno.
http://www.bouno.net/
http://www.bouno.net/theatre/impression/national_anti.html